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第12回タイトル

ペンタックス MZ-S
正面から見た感じはなかなか厳つくていい。縦位置グリップのデザインも本体に合わせてあり、一体化した感じである。小型軽量なのも有り難い点である。
※写真をクリックすると、大きなサイズで御覧頂けます。

フィルムカメラは恥ずかしい?!

 先日、とある出版パーティで顔見知りの同業者と話をした。時節柄、と言っては何だが、最近ではこうしたところで同業者に会うと必ずデジタルカメラのことが話題となる。ところがその同業者は言葉の端々に「フィルムカメラを使っていると恥ずかしいことがある」などと言いだしたのだ。
 これには失笑を禁じ得ない。おそらくこの同業者は「デジタル時代に乗り遅れたカメラマン」であると見られてしまうことを怖れたのであろうが、私はまったく逆の観点から、全てのカメラに接しているからである。ようは依頼主の要望に応じて、良質な写真なり画像を提供できればいいだけのことで、重要なのは、その方法論ではないわけだ。そうした意味ではアナログとデジタルの垣根など実は大した問題ではない。
 もっとも私の仕事でも、デジタルカメラを使う比率が圧倒的に高いから、日常は全てデジタルカメラに取り囲まれていると言っても過言ではない状況である。こうしてパソコンで原稿を書いていて目につくのは各カメラメーカーの専用アプリケーションのアイコンだったりする。
 デジタルカメラはもはや必要不可欠であることは言うまでもないが、どこか従来のカメラについて「カメラ的」に熱い談義が巻き起こらないのは、おしなべて、製品として、それなりの均質性がとれすぎていて、良い子すぎることではないか。
 多人数のカメラマンが集まるような現場であっても、道具的美学を発しておらず、没個性的なのだ。画質至上主義ともいえる開発状況はまだまだ続くであろうから、こうなるとカメラの種別別の選択というよりも、仕事に支障がなくきちんと写れば機種など何でもよいと考えてしまうわけだ。


没個性なデジタル一眼レフ

 何でもよいというのは、くり返しになるけれど良い写真が撮れればそれで良いということであり、これはフィルムカメラ時代から一切変わっていないのは当り前である
ことは言うまでもない。
 しかし、99年にニコンD1が登場するまでは、同業者が多数集まる撮影現場では、まだ、ニコンF3もF4もF5もキヤノンNEW F-1もEOS-1Nも入り乱れていたという状況があった。それぞれのカメラマンどのような機材セットを使うのか、すなわち個々のカメラマンの個性なるものが、ほんの少しだけれど、かいま見えてなかなか面白かったのだ。
 私はその当時の状況においても、ニコンF4やキヤノンEOS-1Nを、同業者の集まる場所において使うのは没個性的だなと思ってイヤだと考えていたから、それらを所有しているにもかかわらず、あえてオリンパスOM-4TiやライカM4をぶら下げて、記者会見場に望んだりしていた。はた目から見れば、かなりひねくれものである。
 現在では、同業者が集まる現場ではニコンD1HとD2H、あるいはD100、キヤノンではEOS-1Dと10Dあたりしか確認できないから、面白くも何ともないのである。デジタル一眼レフの機種がまだあまり多くないということもあるから、当り前なのかもしれないし、かく言う私も同じセットを持って撮影に挑んでいるわけだから当り前なのだが、許されるならば、再びマイナーなフィルム一眼レフやライカで仕事をしてみたいと思うくらいである。むしろ同じような機材を使い横並びで撮影しいるほうが「恥ずかしい」と思うのである。
フィルムカメラの存在意義

 先だって、ある雑誌からほぼ数カ月に渡って、人物のルポルタージュをするという仕事を受けた。主要カットはモノクロである。
 最近ではこうした仕事はかなり珍しくなってきている。
 もちろんかつて仕事をしていた今は亡き『アサヒグラフ』みたいな媒体(よもやグラフ誌などは、21世紀の今では大昔のものという認識だろう)で、写真中心で、10ページにわたり、きちんとフォトストーリーを構築するというものでもなく、使うカットは数点しかないから、その取材日数に対して、使う写真は驚くほど少ない。
 逆を言えばこうしたスパンの長い仕事は、コストパフォーマンスが良くない。だから半分趣味みたいなものになってしまうわけだ。
 締め切りまでかなり余裕があるから、デジタルカメラを使う必然性がまったくないし、半分趣味というならば、いっそのこと趣味性の高いフィルムカメラを使ってしまえということになる。
 コストパフォーマンスを考えれば、これもデジタルにしてしまうべきなのだろうけれど、締めきりまで間のある仕事に、使うかどうかもわからない、たくさんのファイルを溜めこんでおくというのも、後の画像選択を考えると疲れる思いなのである。
 この仕事に私の選択したカメラは、レンジファインダーカメラではM型ライカを数台と、ニコンSP、MF一眼レフカメラはニコンF、F2、そしてAF一眼レフはペンタックスMZ-Sである。
 ライカはこうした荒んだ時代にあっても、ココロの寄りどころとしているので、選択は当然としても、問題は一眼レフである。長期間にわたっての取材であるから、取材する側も飽きてしまうものだ。
 この取材対象者は、その後無類のカメラ好きだということがわかったので、あえて撮影のたびに、ウケ狙いで様々なカメラを使うというパフォーマンスも考えたわけである。
 ただし、レンジファインダーもM型ライカで、一眼レフもライカR型となれば、さすがにはた目からは、かなりイヤラシイ感じがするものなので、これは見送ることにした。モノクロの調子で気に入っている国産メーカーのレンズは、キヤノンFD系とか、ミノルタ系レンズなのだが、今回は正統派の古いニコンと、AF一眼レフはペンタックスを使うことにしたのだ。

「誰も使わない」一眼レフ

 ペンタックスMZ-Sを選んだ理由というのは、最近デジタル一眼レフ*istDをかなり煩雑に使っていて、他のデジタル一眼レフよりも小型計量で携行性がよいこともあり、見栄をはるために大袈裟なセットを必要としない場合には、全てこれを使っているので、すっかり指が「ペンタックス慣れ」しているからである。
 フィルムカメラの選択の場合は、仕事であっても、こうした無理なこじつけとも言える理由でカメラを選択できるので、実は楽しいものなのである。
 さて、ペンタックスにはMZ-3も5もZ-1Pもあるのに、なにゆえにMZ-Sを選択するのかと正面切って質問されると困ってしまうのだが、答は単純で、プロカメラマンが「使っているのを見たことがないから」である。MZ-Sが何ゆえに人気が出なかったのか、逆にこちらが質問したいくらいなのだ。
 そういえばMZ-Sは、その発展型としてMZ-D(勝手な仮称だ)となって、35ミリ判と同等の大きさの撮像素子、すなわちフルサイズのCCDを搭載したデジタル一眼レフになる予定であった。2000年のフォトキナには参考出品されていて、私はちゃんとこれを目撃している。MZ-Dが実現しなかったのは、そのコストの問題であると発表されたが、これは現時点では大正解だったといえる。そのベース機としてのMZ-Sなのだから、それなりのチカラは入っていたはずである。


個性的なデザインと機能

操作ダイヤル部は飛行機の計器パネルみたいでなかなかよい。
松本零士さんのアニメに出てきそうな感じで、測光方式切り替えのレバー類の感触もなかなかのものだ。


プレビューレバーはシャッターボタン基部にあるのも面白い。手前のグリーンボタンひとつで露出モードを瞬時に切り替えることができる。ペンタックスだけのユニークな機構で、私は高く評価している。

 MZ-Sのデザインはなかなかユニークで、個性的だ。ちょっと見ではライカR8、R9にも似ている。言わばカニのような甲殻類系のフォルムである。ペンタプリズムが埋没しているのがそう見せるのである。
 肩口のあたりはやや怒ったような、虚勢を張る感じがして、小型のカメラなのだけど、それなりの存在感をみせようとしているのが面白い。
 最高速シャッタースピードは1/6000秒で、あまり馴染みのないスピードだが、個性的ではある。もっとも私は1/2000秒以上のシャッターはほとんど使うことがないので、この高速シャッターが有用であるかどうかということは本当のところよくわからない。
 ボディ上面の表示パネルはクルマの計器を想起させる感じで、やや手前から後方に傾斜がつけられているのもなかなか斬新である。まあ、わざわざ傾斜をつけなくても、カメラを傾ければ表示は見えるのであるが、デザイン的にもこれは面白い。
 表示パネル外周の黒いリングを回すことによって、シャッター速度などを設定するわけだが、リング内にある液晶パネルに、各種の設定が表示される。これはボタンを押しながらダイヤルを回して、さらに表示を確認するという通常の一眼レフと異なり、操作と表示が集約されている感じがよいわけだ。
 面白いのは、ボディ前面にあるボタンひとつのみでマニュアルから絞り優先AEへ、プログラムAEからシャッター速度優先AEへの変更を瞬時に可能とするハイパーオペレーティングシステムを導入していることで、これはかつてのZ-1Pに搭載されていた機構であって、きわめて独創的アイディアで非常に便利である。
 また*istDでは基本的にはレンズ側の絞りリングをA位置に設定して使用することを基本としているが、MZ-Sの場合には、絞り優先AEやマニュアル露出時には古典的ともいえる絞りリングの使用を前提としている。先進的機能を持ちつつ、操作感は従来のまま。これがよいのだ。
 ボディ左肩にある露光補正ダイヤルは、まるで魔法陣のような複雑さをみせる。ブラケッティング機能とか、も集約させてしまったためか、見づらい感じだ。しかし、私は露光補正を必要とするときはすぐにマニュアル露出に切り替えてしまうので、このあたりの機能は使いづらかろうが個人的に、実はどうでもよい。むしろ、数字のデザインが派手なので、色気のない一眼レフのなかでは、よいアクセントとなっているのではないかとも思うのだ。

不思議なAFエリア

 MZ-Sの測距点は6点、中心点の上にさらに測距エリアが設けられているが、これは横位置での人物撮影時などでの構図を考えたからだというのだが、どうしてもオマケ的な要素にしか見えないので、私は使用したことがない。
 しかもAFのエリアはスーパーインポーズ式ではないので、エリアの設定位置の確認が少し面倒だ。エリアを煩雑に変更して撮影したいという人には、あまり向いていないように思う。評価したいのはMZ-3や5にはなかった、AF-S(シングルAF)とAF-C(コンティニュアスAF)がカメラ前面下のスイッチで簡単切り換えることができることだ。これは高級一眼レフには必ず欲しい機能である。 AFでのピントの合焦については精度的に、とくに問題を感じたことはないが、フォーカスリングが行きつ戻りつする合焦不能状態は、時おり確認される。これはクロスタイプのAFセンサーを使っていないからなのだろうか。

 自分でも最近優しくなったなと思うのが、AF一眼レフにおいてのピントエラーなど、起きて当然であると考えるようになったことだ。以前ならば、こうしたカメラは使いものにならないとしていたのだが、最近では、AF一眼レフカメラを使う場合には、絶対にピントがエラーを起こさないコントラストのある場所をあらかじめこちらがきちんと選択してやるという手助けをしてあげたりする。
 MZ-Sの場合は横線の検知に弱いわけだからこうした被写体を撮影する場合は、カメラを少し傾けて測距したり、それでもピントがエラーするだろうなと予測される被写体の場合には、早々にMFに切り替えたりしている。無駄な抵抗は最初からしないのである。

 それでも大口径の広角レンズを開放値、あるいはその近辺で使うというような場合にMZ-SのAFの精度は、肉眼によるピント合わせのそれよりも歩留まりがよいことは確かだから、ようは使いようなのだ。
 MZ-Sは、むしろデジタル一眼レフに発展しなくて良かったのではないかと最近思うのようになった。デジタルになると、それまでのフィルムカメラは、ただのベース機として見られてしまい、その存在意義が希薄になってしまうようなところがあるからだ。
 機能的には中途半端なところもあるけれど、MZ-Sはそれなりの個性をみせているのである。フィルムからデジタルへの変革期だったので、MZ-Sは目立たなくなってしまったのだろうが、少なくとも機能優先主義みたいなカメラではなく、デザインで個性を出そうというその主張に、ココロを打たれているカメラファンは少なからず存在していることは間違いないのである。

上面から見た感じはスマートな感じがする。ペンタプリズム部分に強い主張がないからだろうか。このアングルだと上部の表示パネルは見づらい。つまり撮影者側からの認識に優れる。三脚使用時などには便利であろう。

ペンタックス一眼レフマウントはバヨネットのKマウントを採用して以降、基本形状は踏襲されている。もちろんM42マウントレンズもアダプターを介して装着可能。最近は旧型のAFレンズを装着するのが マイブームなのだ。
 
AFエリアの選択スイッチ。ボディマウント基部の脇にある。自動選択も可能だ。残念ながらエリアはスーパーインポーズされないので、あまり煩雑に切り替えるというようなことはしない。
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