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第12回タイトル

キヤノンF-1。FD55ミリF1.2 S.S.Cアスフェリカルつき。スマートだが迫力のあるボディである。
ブラックボディを基本としていたというのも、発売当時は斬新であった。装着レンズは非球面レンズを採用した高性能標準レンズ。
※写真をクリックすると、大きなサイズで御覧頂けます。
本機はマイナーチェンジ後のタイプなので巻き上げレバーにプラスチックの当てがついている。
前期モデルはフィルム巻き上げ角度も大きかった。巻き上げレバーの作動はスムーズで、心地よいものだ。
 ぐんにゃりしたペンタックスMZ-Sを触った後は、口直しに直線を基調としたシャープなボディを触りたくなる。
 思い立って、この数週間キヤノンF-1と行動を供にしている。
 と、言うのは簡単だけれど、キヤノンF-1と日常の時間を常に共有してゆくというのは、かなり強い覚悟が必要となる。なにしろ大きく重いのだ。しかも、非常にマズいのは、交換レンズやアクセサリーを日頃の「仕事カメラ」であるEOSのデジタル一眼レフカメラ1Dsとか10Dと、まったく共有できないという不便さがある。
 キヤノンはAF化にあたって、それまでのFD系レンズとはまったく異なるマウントを用意し、新しいEOSシステムに採用した。旧来のマウントを維持してAF化を押しすすめようと考えたニコンやペンタックスと逆の発想なのだが、仮にそれまでのキヤノンユーザーから反発があろうとも、マウントを変更したことは功を奏しており、光学性能の向上はもとより、シフトレンズの絞り自動化などの余裕をみせている。これらの要件は、デジタル化にあたっても、他社メーカーと比べて有利にはたらいていることは言うまでもなかろう。


ニコンとキヤノンの思想の差

 逆に「マウント不変」と声高に叫ぶニコンのほうは、レンズ交換式のデジタル一眼レフ登場以降は、APS-Cサイズの撮像素子に合わせた専用レンズは作るわ、絞りリングは省略してしまうわ、フォーカスリングとズームリングの配置を逆転させるわで、はた目から見ていると、何か迷走しているような感じすら受けるのである。こういった思想の揺らぎとも思える状態は、まったくもって面白くない。
 基本的に旧型レンズは新しいボディへの装着は可能だけれど、絞りリングをなくしてしまったり、デジタル専用レンズを作ってしまうと新型レンズは旧型ボディに使えなくなるということになるのである。
 厳しい技術競争の中に置かれているニコンとしては旧来のマウントの形状を変えることなく新技術を盛り込むのはやむをえないのかもしれないが、今でも時折ニコンFなどを手に街をふらつくことがある私には、許せないのである。相互互換をきちんと守って、はじめてマウント不変を唱えるのではないかと思うのである。
マウント変更の潔さ

 もっともAF化以降の製品が、それまでのシステムと互換性がないということは、潔く感じるところもある。これはキヤノンの思想の堅固さを裏づけている。
 つまり、キヤノンF-1を使うにあたっても、「すべてをMFで行くのだ!」という覚悟を決めることに他ならない。
 下手に互換性を保っていると、AFにすれば良かったとか、デジタルにすれば良かったなどと、軟弱な思考が頭をもたげてしまう場合も出てくる。日頃、AFに頼ってピントを確認することを忘れてしまった目、フォーカスリングを回すことを忘れた指にとっては、F-1を使うことは必ずや良いリハビリになるはずなのだ。
 

F-1の存在感

ファインダー交換はスライド式。ニコンF、F2のそれと比べると、確実性が高い。スポーツファインダーサーボEEファインダーなどの交換ファインダーが存在した。スクリーンも交換可能。

 F-1の凄さというのは、その重量もそうだが、外観のシャープさと「虎屋の羊羹」と呼ばれたブラックの深い色と塗装の厚みに伴う威圧感というか、存在感が非常に強いことにある。このあたり実勢価格90万円を超えるEOS-1Dsに何ら負けているところがないのだ。
 外装は真鍮の厚みのあるカバーだが、この堅牢さはただものではない。力強く握りしめても、ボディが軋むようなことは一切ない。
 ライバルのニコンFあるいはF2ではメーター機構は、交換ファインダーのフォトミックファインダーに内蔵されているため、外観は、後で建て増しをした2階立ての家みたいになってしまうが、F-1の場合はメーター機構がボディ内にあるために、とてもスマートである。この構造はなかなか凝っていて、ファインダースクリーン中央に ハーフミラーを置き、ボディ側の受光素子に一部の光を誘導するようになっている。測光域は中央に集中するが、被写体の反射率の見極めがきちんとできれば、じつに精度の高いメーターとして使用することができるはずである。


キヤノンとニコンの役割

 このスマートさが受け入れられたのだろうか、F-1はファッションとかコマーシャルのカメラマンに愛用者が多く、ニコンF、F2は報道畑のカメラマンがよく使っているという印象を受けた。もっとも最近では、こうした構図はまったく崩れてしまっているのだが、メーカーごとに、こうした印象を持つのは実は悪いことではないと思うのである。
 キヤノンとニコンというのは、今のKiss DigitalとD70ではないけれど、永遠のライバル関係にあるから、F-1現役当時、熱烈なニコン支持派であった私は、今だからこそ告白してしまうけれど、密かにF-1のデザインとスペックに強い妬みを持っていたのである。
 本当はF-1は素敵なカメラなんだけれど、ニコンF、F2は質実剛健を売りに
していたからF-1を支持して、軟弱に思われるのはイヤだったのかもしれない。
 しかし、前述したように、F-1は決して軟弱ではなく、ニコンと同じく体育会系のものであって、いわばニコンが柔道部ならば、キヤノンはテニス部みたいなスマートな感じだったわけだ。この本質を現行製品だったころは弱輩者であったため見抜けなかっただけなのである。


ファッションとしてのモードラ


   
モータードライブMFを装着した状態。いきなりその高さと重量は倍になる感じである。グリップ感はなかなかよいので、使っている時はそれほど問題はないのだが、携行する時は辛くなる。装着レンズはFD35ミリF2の初期タイプで第一面が凹レンズとなっている。 モータ−ドライブMF背面。連続撮影モードの場合は1/60秒以上のシャッター速度を使わねばならない。完全な機械連動式だから、この当時のモータードライブは使用にあたっての制約が多かったのだ。
   
 F-1用に用意された「モータードライブMF」もカメラボディとなかなかマッチングがよいのだが、さらなる超重量級カメラとなるため、持病の腰痛が出ることを怖れて最近は使っていない。もし機会があれば、昔憧れだったファッション撮影などに使ってみたいものである。作動音は意外にもまろやかなことに好感が持てる。ニコンFやF2のモードラの作動音と比べても品位が高いように感じさせたのである。
 ボディと、モードラとの連動というのは完全な機械式だから、それこそメカニズムの英知を感じさせるのだが、残念なことにこれだけ大きく重いのに、コマ速度はいまのワインダー並みという欠点がある。またフィルムの自動巻き戻しもないから、撮り終わった後は、大きなボディを抱えながら、小さな巻き戻しクランクをえっちらおっ ちら回す羽目になるのである。
 このように、今では実用にはならないかもしれないが、モードラを組み合わせたそのものが「ファッション」だと思えば腹も立たないわけである。

優秀なFDレンズ

 F-1と共に用意されたFDレンズはそれまでの絞り込み測光から、開放測光に対応するため改良されているが、一部FL時代からのレンズ構成のものが踏襲されているものもある。
 FDレンズの大きなウリはカラーバランスの統一化である。レンズを交換すると、まちまちな色再現になることが珍しくなかった当時としては、本格的カラー時代を迎えて、カラーバランスの統一は必須な要素であったわけだ。経年変化によるレンズの変色などの影響が出ている個体を除けば、FDレンズの色再現は現代でも十分に使用に耐えるものである。また、モノクロ再現もなかなかのもので、柔らかみのあるトーンの再現は、今でも感激することがある。
 この当時のFDレンズの多層膜コーティングは「S.S.C」(スーパースペクトラコーティング)と呼ぶのだが、当時としては、無駄な反射を徹底的に撲滅してくれるような頼もしいニュアンスを含んでいて、その実際の効果はともかくとして、ネーミングにはかなり好感を持ったものである。
 F-1はその後にNewF-1となって、それがMFフラッグシップ機の最終モデルとなり、MFシステムを終焉させるのである。
 キヤノンはEOSシステムにおいても、「1」の称号を特別なものとしているのであるが、真の「1」のつくカメラは、F-1以降デジタル、銀塩ともに、まだ登場していないようにも思えるのである。

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