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ニコンFブラック。ブラックニコンに憧れたのもFからであったように思う。 一時は予約をしないと入手できない状況であったと聞いている。ブラックボディも特殊なものであったのだ。
※写真をクリックすると、大きなサイズで御覧頂けます。
 ニコンFについては、これまで幾度となく書いてきた。Fが現役で発売されていた時と自分の人生の接触点としては、わずかな時間しかないはずなのだが、ここに来てFへの思いが再燃している状況なのである。

ニコンD70で出てきたニコンへの疑問

 
フィルムカウンターとかフィルム枚数の覚え書きもSシリーズとさほど変わっていない。このFは68万代のシリアルだが、まだニコンにパーツがあったころ、巻き上げレバーをニュータイプに交換してもらった。   通称「ニューニコンF」。シリアルは740万代のもの。後継機F2が登場した後もしばらくの間併売されていた。巻き上げレバーやセルフタイマーレバーなどはF2の形状と似たものが採用された。
 このきっかけというのは、面白いことに話題のデジタル一眼レフカメラD70を使いだしてからのことである。D70登場までは、ニコンのデジタルカメラというのは正直使う気が起こらなかった。
 これは自分でもかなり不思議なのだが、何か伝統のFマウントを採用したデジタル一眼レフカメラというものが、自分の中ではどこか不自然な感じがして、デジタル化とニコン一眼レフの組み合わせというものに、自分の思いが消化し切れなかったということもある。
 フジフイルムやコダックの最新デジタル一眼レフカメラでさえFマウントを採用しているわけだから、システムカメラとしては最上級のものを持っていることは言うまでもなく、旧来のマウントのまま、デジタル化への転換においても何ら問題がないところまで技術発展をみせたニコンの姿勢は立派なものであるが、30年来のニコンの亡霊が取り憑いたままの私としては、自分の中では銀塩からデジタルへのバトンタッチがうまく行かなかったのである。このあたり愛用のEOSデジタルとはかなり違った価値観を持って接しているのである。
 それでもD70のコストパフォーマンスの高さには驚いた。幾度かのインプレッションやムック本の仕事でも、好成績を治めたので、仕事にも本格的に使い出したのである。
 ただし、釈然としない気持ちというのはデジタル化だけではなく、ニコンが以前からのユーザーインターフェースを大変換させようとしているところにも引っ掛かるところがある。
大幅なユーザーインターフェースの変更

裏ブタを取り外したF。シャッターはチタン幕だ。ごく少数布幕のものが存在する。私も640万代のモデルで見た記憶がある。ニコンSPやS3でもチタン幕採用のモデルがあるのになぜ時代を逆行したのだろうか。
 これはまず、AFニッコールレンズの絞りリングを省略することから始まっている。絞りリングをなくし、ボディ側のコマンドダイヤルで絞り設定を行う専用のいわゆるGタイプレンズというやつである。
 絞りリングがなければ、絞りリングによる絞り設定を行うことを基本としているニコンカメラボディには使うことができない。現行品でもこれはFM3A、FM10がある。もちろんFでもダメだ。
 次に困ってしまったのが、フォーカスリングとズームリングの位置関係を逆にしてしまったレンズが登場してきていることだ。基本的にはAF一眼レフだからAFでの使用を前提としてしているのは当り前だが、MFに切り替えて使用する場合もあるし、超音波モーターを内蔵しているレンズでは、AF/MFの切り替えを行うことなくMFでのピント合わせをすることが可能である。
 長年のニッコールレンズの使用で、フォーカスリングとズームリング、絞りの位置関係を完全に「記憶」している私の指は、ふたたび新しい学習を迫られているのである。不器用な私にとって、これは混乱をまねく「改良点」なわけだ。私の小さな抵抗としては、絞りリングのないもの、フォーカスリングとズームリングの位置関係が逆転しているニッコールレンズは絶対に購入しないという課題を自分に果たしているのだが、こうした反逆行為をいつまで続けることができるだろうか。
 最もD70などのデジタル一眼レフカメラのファインダー視野は絶望的に小さいので、室内とか暗い場所でのMFのピント合わせは、ほとんど不可能と言ってよく、ここはAFに全てを委ねてしまうほうが得策なのである。しかし、それでも最終的なピントの確認は、合焦マークや合焦音ではなく、肉眼で行いたい私にとって、小さいファインダーは苦痛以外の何ものでもない。ファインダーの大きさ、これは最も早急に改善しなければならない点であろう。
 さらにはD70ではCPUが内蔵されていない、ニッコールレンズを装着した場合、メーターがまったく機能しない。伝統のFマウントカメラとは何なのか、考えさせられてしまうところである。上位機種D2Hでは、これを可能としているのであるが、古くからの「ニッコールレンズ使い」としては、D70でもこれを実現して欲しかったのだ。
 まあ、色々と文句はあるのだが、私もオトナになったので我慢することも覚えた。やっとニコンのデジタル化に到達したわけであるが、それにしても、ずいぶんと時間がかかったものだ。

素晴らしいデザイン

アイレベルファインダーを取り外してみる。最近ではアイレベルファインダーつきのモデルが一番人気であるが、プリズムの腐食が進んでいる個体が多いので、注意が必要である。

 さて、ここからがFの話である。考えようによっては、ニコンの一眼レフは初号機から完成域に達してしまっているという見方すらできる。そのぐらいFというのは凄いカメラなのである。Fの研究書というのはこれまで数限りなく出ているし、とくにコレクターの方々のための各種番号帯における細かい仕様の違いなどはそちらを見ていただくとして、ここでは21世紀におけるニコンFのあり方について考えてみたい。
 まずはそのデザインである。内部のペンタプリズムの形状を生かしたままの尖ったファインダー屋根は、今となってはかなり珍しく、すごく新鮮に思える。
 過ってカメラを落とし、自分の足の甲にでも当てたらタイヘンなことになりそうな形状であるが、これがカメラの持つ潜在的なチカラを現しているようにも思える。すなわちこうしたシャープな形状のカメラを使うと、シャープな写真が撮れるのではないかという、ほとんど妄想的な夢を持ったりするわけである。これはもちろん悪いことではない。
 ボディまわりの角張ったラインも、手に刺激を与え、脳神経まで伝わるような感覚がある。写真を撮るという行為自体に緊張感を与えてくれることができるわけだ。
 こうしたシャープな線に包まれたFは、その場所がスタジオであろうが、戦場であろうが、街中であろうが、圧倒的な存在感を持って迫ってくる。もちろんカメラマンというのは「撮らせていただく」立場であるから、黒子に徹していなければとも思うのだが、道具そのものの存在感を示したい場合という撮影も、なくはない。闇に潜ませるという目的に使用するには、ブラックボディが適するわけだが、Fのブラックボディは別の意味で存在感を際立たせてみせる場合がある。
 現在でもFの存在感というのは揺るぎがなく、そのデザインはどこに出しても恥ずかしくないものだと思うのである。


視野率100パーセントのファインダー

『アサヒカメラ』の「ニューフェース診断室」で「亡者の三角布」と揶揄されたペンタプリズムの屋根。まあ、無理をすればそう見えなくもないのだが、これは考え過ぎというものだろう。

 Fの登場したばかりのころはレンジファインダーカメラSシリーズも健在であったから、スナップショットなどはこちらに任せていたというカメラマンも多かったのではないだろうか。
 Fのファインダーは言うまでもなく視野率100パーセントである。一眼レフの最初の仕様からそうなっているというのは立派としか言い様がない。これもレンジファイダーカメラとの差別感を強く打ち出すことに役立っているのだが、製造、調整作業にあたっては相当の苦労があったことは想像に難くない。ニコンのフラッグシップ機は現在のF5に至るまで視野率100パーセントを踏襲しているが、まさか初代が100パーセントなのだから、あとで改悪することはできず、ニコンにとっては大変だろうけれど、良い伝統となっている。
 Fはファインダーと、ファインダースクリーンも使用目的によって交換式としていることも凄い。こうしたアイディアがどこからもたらされたのかは知るよしもないが、撮影レンズを通して見える像がF値や焦点距離によって、様々な見え方をするという問題に対して、すでに対処していたということなのであろう。
 初期のFではファインダースクリーンのフレンネルレンズの円がかなり目立っていたが、時代を経るごとにこのピッチは細かくなり、後期型のものになるとほとんど目立たないし、全体に明るくなった。これは後継機F2とまったく同様で互換性もある。さらに素晴らしいのは、マット面においてのピントのキレが、初期型と後期型でもさほど差がないということである。こういうことが昨今のただ、明るいだけの視野を得るために開発されたAF一眼レフのファインダースクリーンとは大きく異なる点であるが、一部にかろうじて生き残っているMF一眼レフにおいても、Fクラスの高性能スクリーンを採用しているカメラはほとんどないと言って良い状況である。
 ピントを合わせる意味みたいなものを再度考えたいという人には、たったこれだけのことでもFを使う意味は出てくるというわけである。
 Fのファインダーは交換式だからスポーツファインダーとかウエストレベルに交換できるが、面白いのは時代の発展とともにメーターを内蔵させたファインダーを供給することでカメラボディ本体の寿命を驚異的に延ばしたことである。


バージョンアップできるF


   
不変のFマウント。最新のデジタル一眼レフでも基本形状は同じというところは凄いが、基本的には旧型ボディのためにというよりはレンズ共用のためであるという考え方だ。 「NIPPON KOGAKU TOKYO」のロゴが懐かしい、65万代のF。巻き上げレバーも金属のむき出しのため、大量に撮影すると親指が痛くなる。
   
 当初のF用メーターは、街の看板みたいなものであり、デザイン的にはかなり見苦しいものであったが、シャッター速度と絞りを完全に連動させたものであり、どちらを先に設定しても適正露出を得ることが可能になった。
 次のフォトミックファイダーでは外部測光式ファインダー内にメーターを仕込んだ一体型として登場した。TTLメーターになるのはフォトミックTからである。レンズ側のメーター連動爪、通称カニの鋏をファインダーのピンに追い込みながら、装着するのは面倒だが、メーターの存在しないカメラが、ファインダーを付け替えることで、当時としては最新のTTL開放測光一眼レフ(以前はそういう呼び名がほんとうにあった)になるのだから、初期からのFユーザーも納得の機構であったと言えるであろう。
 このあたり、デジカメのライフサイクルの短さとは対照的であるわけだが、今ふうに言えばFはファインダーを更新することで、最新のモデルにバージョンアップを可能にしていたカメラだということも言えるのである。なかなか親切であると思う。
 フォトミックTはその後中央部重点測光を採用したTNとなり、最終的には開放F値セットを簡便にしたFTNとなる。フォトミックファインダーは、いずれのタイプも不格好で、まるで違法建築の建て増し物件みたいであり、Fの美しいデザインバランスを崩してしまうのだが、これもまた、最近では個性を感じるようになってきたのが不思議である。

ライカ的な内部機構

旧タイプのファインダーアイピースは四角であった。後に丸型に変更されるが、この形状はF3まで変わっていない。四角タイプから丸型へ変更するアダプターも存在し、パーツがあるころは改造も受け付けていた。

 Fでは、カメラの基本機構というのは、Sシリーズのそれに習っているところがあるので、古臭いものである。Sシリーズのファインダー機構を除くフィルム送りやシャッター関連はライカのそれを踏襲しているわけだから、Fにもその根底にはライカ的な機構が息づいているというわけである。
 フィルムの装填は底蓋を取り外す方式であり、フィルム巻き戻しのためのリワインドボタンはなくシャッターダイヤル基部にあるリングを回してスプロケットをフリーにするような仕組みである。
シンクロ関連はセレクタ−を適宜なところに合わせなければならないが、現実的にはストロボでの使用となるわけだから、そう煩雑に使うものではない。
 いずれにしろ、撮影者が少し気をつけていれば、何ら問題がない要件であるから、実際の操作にあたって、とくにイラついてしまうということもない。取り扱い説明書を読まずとも、このあたりは普通のカメラを操作できる人ならば何ら問題のないシンプルさである。

黎明期のモータードライブ

ニコンFフォトミック。マイクロニッコール55mmF3.5つき。厳つい形だが、今みると、どこか魅力を感じる。もっとも、外部測光方式だから、使用にあたっては約束事もある。ファインダーの中にメーターを組み込んだという感じである。    モータードライブ関連も、底蓋のパーツを取り替えなければならず、基本的にはボディ1台に対して1台のモータードライブしか使えないとされた、つまり現品調整しなければならないわけだ。
 このモータードライブは幾度となく手に入れては売り飛ばすということをこれまでくり返している。
 フィルム交換時の面倒臭さとか、作動音の大きさ、グリップのあまりの無骨さなど、古臭いところが気に入らなくなる原因なのだが、しばらく時が経つと、この作動感触が懐かしくなり、再び欲しくなるというかなり困ったシロモノなのである。
 Fの時代はまだモータードライブは黎明期であり、特殊装置という位置づけであったから、ボディ本体よりもその価格が高いという逆転現象も起こっていた。
 それでもコマ送りを完全にメカニカルによって連動させ、連写する機構は、現在の内蔵モータードライブなどよりも、はるかにメカニズム的な魅力にあふれている。現時点ではモータードライブなしで使っているFだが、近々またこのモータードライブを手に入れそうな予感がしている。
     
ニッコール10.5cmF4つき。ニコンSシリーズ用と構成は同一。自動絞り機構がなく、プリセット絞り方式。3群3枚構成だが非常によく写る。後に自動絞りニッコールオート105mmF2.5レンズと交代することになる。  

現代に生きるF

ニッコール2.1cmF4つき。ミラーアップを必要とするレンズで、ファインダーは巻き戻しクランクの基部に装着するタイプ。 つまりフィルム巻き戻し時にはファインダーを取り外さねばならないわけだ。

 ごく最近のことだが、仕事でFを使用した。撮影が歌舞伎の場面ということで、かなりの撮影上の縛りがあり、また作動音にも気を使わねばならない。デジタル一眼レフならば圧倒的にラクな条件なのであるが、フィルムでという要望だった。これは辛い。
 手元にあるいくつかの一眼レフの空シャッターを切ってみたところ、消音ケースに入れて、問題がなさそうなのはなんとFであった。
 特別に静かな作動音というわけではないのだが、音が篭る感じで耳障りではないのである。これはかなり大事なことである。F単体と超望遠レンズとの組み合わせはお世辞にも重量バランスがよいというものではないけれど、三脚に載せての取り回しは悪くないほうだ。
 ただし、暗がりの中、しかも消音ケースの中でのフィルムチェンジのための、裏ブタの取り外しとフィルム装填にはかなり難儀した。逆に言えば、これを除けば満足する操作性だったし、仕上がりも何ら問題ないものであった。
 40年以上前のコンセプトにより設計されたFは、21世紀の現代にも十分に通用するということを証明してみせたのであった。最近ではライカと並んで、中判や大判カメラ、あるいはデジタルカメラの仕事でもFにモノクロフィルムを詰めて、一緒に持ち出すことが多くなった。シンプルなFは設定に迷ったりすることもなく、バッテリーを気にする必要もない。なぜか撮影をしていて楽しくて仕方がないのである。

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