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キヤノンVIL+キヤノン50ミリF1.8


 キヤノンのレンジファインダーカメラというのは、20年ほど前くらいまでは、自分の中では最近まで一番遠いところにあった存在というのが、正直なところである。何せ生意気にも、そのころすでにライカを所有していたのだ。今さらライカを真似た日本製コピーカメラを使ったところで、何も驚かないし、得るものはないと考えていたこともある。
 ところが、ここ二年ほどの間に、依頼仕事関連で使うカメラの多くがEOSのデジタル一眼レフカメラになってしまったためか、「キヤノン」というブランドのカメラを、レンジファインダーの時代から、あらためて見直してみるという作業に入っているところである。

 

 

 

 


キヤノンレンジファインダーカメラの魅力

 通常の依頼仕事の大半はデジタル一眼レフを使用するが、必ずプライベート用のフィルムカメラは持ち歩いている。しかも時代のまったく異なる同じブランドのカメラを持ち歩くというのは気分が良いので意図的にそうしている。
 同行のディレクターや編集者などに、およそ半世紀の歴史の違いのあるEOS-1DsとIVsbなどを同時に見せつけて、同じ「キヤノンのカメラだ!」というと、一般の人々はみな一様にびっくりするのだ。
 面白いのはみな、最新のデジタル一眼レフよりも、キヤノンのレンジファインダーカメラの持つ独自の雰囲気に魅了されるようである。こういうところに現在のデジタル機材の「カメラ」としての問題点があるように思うのだが、まあ、今回はそれは言わないでおくことにする。
 カメラの歴史検証というのは苦手なので、そういうのはクラシックカメラ専門誌などに任せておくことにして、ここでは例によって、キヤノンレンジファインダカメラをこの21世紀に使っても満足できるかどうかということに重点を置いて話をすすめることにする。

 

※写真をクリックすると、大きなサイズで御覧頂けます。

 

変倍ファインダーの粋

 私の所有するいちばん古いキヤノンのレンジファインダーカメラはIVsbなのだが、さすがにこれで禄を食むための写真は撮影したことはない。いや、正確には『季刊クラシックカメラ』誌のキヤノン特集号で作例を撮った記憶があるので、もしかすると少しくらいは原稿料は貰ったのかもしれないが、今、バックナンバーが手許にないのでわからない。
 IVsbは一見すると、バルナックライカのように見えるのだが、きちんとキヤノン独自のオリジナルの仕様はある。ライカとの大きな違いは、ファインダーがフレーミングとピント合わせを同時に行うことができる一眼式のファインダーになっていることだ。
 距離計ファインダーを使ってピントをしかるべきところに合わせて、目を移動させてフレーミングをやり直すというあの面倒さがないわけである。ただし、ファインダー倍率は大きいとは言えないから、フレーミングはやりづらいし、測距精度的には不満もあるし、なにしろ正確にピントを合わせ、なおかつ真剣にフレーミングしようとするとかなり目が疲れるのは事実である。

キヤノンIVsb+キヤノン50ミリF1.8
古臭い印象を受けるカメラだが、操作に慣れてしまえば、決して使いにくいというわ けではない。ボディ側のファインダーはピント専用と位置付けてしまっている。ラピッドワインダーの操作感はなかなかのものである。とにかく作り込みが見事で、往年の工作技術の高さには舌を巻く。

 ところがIVsbでは変倍のファインダー方式を採用しているので、一番大きな倍率の測距位置に合わせると、もう距離計部分しか見えないという感じになるのだが、かわりにきわめて合焦精度が高くなる。
 そこで私は一眼式のファインダーの特性を放棄し、外づけのファインダーを用意して使用することにしたのだ。現行機で言えば、コシナ・フォクトレンダーのベッサTを使っているという感覚で、それこそ135ミリレンズでも、問題なく使うことができるし、それよりも短焦点側のレンズを使えば、かなりアバウトなピント合わせでも問題はなくなるわけだ。
 ある意味では、カッコよりも実用的な割り切りなのだが、これが使い勝手がとてもよいのである。さきほどのベッサTよりも距離計のコントラストは低く及ばないにしろ、撮影の迅速性が格段に向上することは間違いない。
 しかし、これではせっかくのIVsbの一眼式ファインダーの特性を捨ててしまうことにはならないかという意見も多数あろうが、実際の撮影においては実用的に優れていればいいわけであって、機能の楽しみというのはまた別のところにあるわけだ。
 つまり、IVsbは気紛れに本体ファインダーを使って、"撮影をしてみることもできる"カメラという認識程度で、現代の人々は使えば良いわけである。夜更けに一杯やりながら、ファインダーを覗いて、あれやこれやにピントを合わせてみる行為が楽しいのである。
 カメラの作りに関しては、あらためて説明することもないだろうが、とても優れている。ボディ両袖部分はライカのような柔らかいカーブではなく、角ばっている。手に触れる感触は抵抗感があるものの、これは逆に緊張感をもたらしてくれ、写真家の撮影意識を高めてくれるわけだ。この季節だからボディに触れると背筋の緊張が走る冷たい金属質感もたまらない。外装カバーもライカよりも肉厚な感じがして、頑丈なように思う。
 重量感があるためか、バランスもよくブレにくいところもよい。さらに専用のラピッドワインダーを装着するとかなり厳つい感じになるが、これがまたメカニズム的に素晴らしく美しいのがよい。ボディ上面のノブ式ダイヤルを使っての巻き上げが、ややかったるいせいもあるのだが、このラピッドワインダーは、今のライカMP用のライカビットなどよりも、かなり実用的であることは確かで、本家ライカよりも廉価に購入することができるのも嬉しい。動きもスムーズで、作動感触は本家ライカビットにも優るとも劣らない出来である。
 クラシックな雰囲気のため、やや敬遠されがちなところもあるIVsbだが、実際には、ライカをいかにして超えるかを、当時のエンジニアが真剣に考えていたことが実感できるボディとなっているのである。こういうことは実際に使ってみないとわからないことであろう。

完成度が高いVIL

 次なるボディはVILである。キヤノンレンジファインダーカメラで最も人気のある機種である。スマートなボディは、今でも旧さを感じさせないし、見た目からするとシャープな写真が撮れそうな気になってくる。フォルム的にはライカM4あたりに似ていなくもない。
 本機も、変倍式のファインダーがウリである。カメラ背面の焦点距離設定ダイヤルを動かすと、中にあるプリズムがくるくると回ることが確認できる。ファインダーの倍率は35ミリ位置では0.65倍、50/100ミリ位置で等倍、測距専用のMg位置では1.55倍となっている。当然有効基線長は倍率により変化する。ファインダーの見えはM型ライカのシャープさには及ばずかなりハレっぽい印象をうけるが、実用上は問題ないだろう。

キヤノンVIL+キヤノン50ミリF1.8
VTの完成度も魅力だったが、スマートなVILが個人的に気に入っている。一軸式のシャッターダイヤルだから、現代のカメラと何ら変わらない操作ができる。フォルムか ら受ける印象だと、全てシャープな写真が撮れそうな感じがする。ラピッドワインダー方式採用のVITというモデルもある。コレクターズアイテムだった時期もあるが、 最近では相場が下落傾向なので、入手のチャンスである。


 距離計とファインダー像が同時に観察できるから、M型ライカ的な使用法が可能である。残念なことに35ミリ時はフレームはないけれど、50ミリ、100ミリ枠は内蔵されている。パララックスも自動補正されるから、安心である。フレームは採光式ではないから、明るくはないけれど、ラインの仕上げはなかなか綺麗でいい。
 さらに凝っているのは、外づけの専用ファインダーを装着した場合にも、レンズの繰り出しによって連動して上下するアクセサリーシュー部分にあるピンによって、ファインダーそのものを撮影距離によってシーソーのように上下に動かすことで、パララックスが補正されることだ。とても面倒見のよいカメラであるとは思うが、もともといいかげんなフレーミングしかできない外づけのファインダーにここまでの機能を持たせるというのは、昔のキヤノンのエンジニアの中にはかなりこだわりのカメラマニアがいたのではないかと思ってしまうのである。
 シャッター幕はステンレススチールだから、作動音は小さくはないが、太陽光に向けても焼けこげを作ってしまうようなことはない。

 

 

実用的なP(ポピュレール)

 VILといえば、その後に登場する普及型カメラP(ポピュレール)を語らないわけにはいかない。というよりも中古カメラ店では、程度によっては1万円台の個体も見つけることがあるから、キヤノンレンジファインダー入門機としては、リーズナブルで最も適した機種とも言える。
 基本的にはPはVILのファインダーを簡易化したものと考えてよい。ボディのメカニカル構造はほとんど同じであろう。ニコンで言えば、SPの簡易版であるS3とかS4がこれにあたるわけだ。
 ファインダーには35、50、100ミリのフレームが内蔵され、常時これは表示されている。はじめてこれを覗いた時には、その賑やかさにはびっくりした覚えがある。まるで、昔の米SFドラマの『タイムトンネル』みたいな感じなのである。しかも、ファインダー像はかなりハレっぽく見え、距離計のエッジもはっきりしているわけではないので、お世辞にも見やすいとは言えない。

キヤノンP+キヤノン35ミリF1.5
廉価版ボディだが、ブラックモデルはなかなか美しく、仕事ができるカメラという印象をもつ。ファインダーは見やすいとは言い難いが、実用上では十分である。35ミリレンズを装着する場合は外付けのファインダーを使用することが多い。VILにもブラックモデルがあるが、ずいぶんと昔に一度見ただけである。

 ファインダーの倍率は等倍と高く、測距精度は優れているが、裸眼でも、35ミリのフレームを一度に見渡すことはかなり難しく、一応内蔵してみました。という感じなのだ。機能優先を考えたからだろうが、いささかこれには無理がある。このため私のPには50ミリレンズがつけっぱなしになっているくらいである。ただし、このクラスのカメラとしては、珍しくパララックスが自動補正されるのはかエライと思う。アルバダ式ファインダーでもやればできるのである。
 他の機能はほとんどVILと同一だから、当時としても、Pはコストパフォーマンスの優れたカメラであったのだろう。値段が安いこともあって、ライカとは比較しても意味はないわけだし、このあたりは割り切って使えばいいだけのことである。
 購入後、使用してみて仮に「体に合わない」ということがわかったとしても、その痛みは最小限で済むというわけだ。最近では大倉舜二先生が、お使いになっているのを見た記憶があるが、こうした巨匠が使っても満足たりうる充足度がPにはあるわけだ。ライカやニコンのレンジファインダーカメラの美品を過保護にするあまりおっかなびっくり使うよりも、よほど表現者のカメラとして、実用度は高いと思うのである。

 

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デザインブスのキヤノン7

  キヤノンレンジファインダーカメラで最も売れたのはキヤノン7であると言われている。いきなりカメラ名がアラビア数字になってしまうのがヘンなのだが、表記的には正しい。7はセレン方式の露出計を内蔵したため、かなり大ぶりとなった。登場した時代は異なるが、全体の雰囲気としては安手のライカM5という感じである。
 角ばったボディは依然として変わらないのだが、後のキヤノンF-1においても、このフォルムは踏襲されているから、角ばったボディはT90が登場するまでのキヤノン伝統ともいえるものだ。
 ただし、前面にあるセレン露出計受光部の存在によって、デザイン的にはブスになった印象をうけるのが残念だ。これまでのモデルにはフットワークの軽さがあるという印象を受けたのだが、大きさゆえに、7にこれは感じない。

キヤノン7+キヤノン50ミリF1.4
ブラックモデルはカメラを小さくみせてくれるのがよい。しかも、デザインのブスさ加減が、やや低減される。ライカのブラックペイントボディよりも粋であるかもしれ ない。セレン式メーターは意外にも操作しやすく、初心者にも使いやすい。レンズにもブラックが存在するらしいが、私は見たことがない。

 

 7のファインダーは変倍方式をやめ、同一倍率のままブライトフレームを切り替える方式を採用した。これでかなりM型ライカに近づいた印象をうける。フレームは採光式だから、明るくて見やすいのがよい。フレームに破線部分があったりするのは御愛嬌だが、各フレーム下面には焦点距離数値があって、判別しやすいようになっている。フレームの切り替えはボディ上面のダイヤルによって行う。
 その後、Cds露出計を内蔵した7sを最後にしてキヤノンレンジファインダーカメラは終焉を迎えるのだが、7sは現行機として70年代初頭まであったから、ニコンSシリーズよりも長命であったわけだ。一眼レフでは潔くMFのシステムを切り捨ててしまったキヤノンだったのに、当時はかなりのこだわりがあり、一眼レフとの共用を目指したということなのだろうか。

 

 

高性能、個性的なキヤノンレンズ

  さて、これらのキヤノンレンジファインダーカメラに用意されたレンズ群の性能はどうだったのであろうか。使用された方ならわかるであろうが、いずれのレンズもすばらしく優秀である。一時はセレナーという名前がつけられていたこともあった。
 私の好きな35ミリレンズだけでもF3.2、F2.8、F2、F1.8、F1.5の5本の種類がある。私など、もうこれだけでも嬉しくなってしまうのだが、いずれも満足の行く性能を持っている。
 特に使用が多いのがF2.8とF1.5レンズだが、F2.8のほうは屋外での気軽なスナップに、F1.5のほうは夜間や室内において力を発揮する。モノクロのトーンをみると、シャドーのディテールの再現がよいこと、ハイライト部分の描写に優れていることなど、いわゆるキヤノンらしい柔らかみのある描写はこの頃からすでに感じられるのがいい。カラー再現はやや冷色調のものが多いのだが、これはヌケがよいことを同時にあらわしている。
 個人的に興味を持っていて、面白い描写をすると思うのは、19ミリF3.5レンズだ。レトロフォーカスタイプを採用しているので、大きく重いのだが、周辺の像の立ち方など、現在のレンズには決して見られない酷さで(笑)、レトロフォーカスタイプのくせになぜか周辺光量も低下したりする。コントラストもぐずぐずである。つまりキヤノンレンズとしては数値性能は悪いのである。
 しかし、この描写特性により画面中央の主要被写体を余計に引き立たせることができるわけだ。周辺の焼き込みは暗室作業や、パソコン上での画像処理でも簡単にできるわけだが、このレンズの周辺の落ち込み方というのは、独自のものがあるから真似をしようとするとたいへんかもしれない。つまり描写特性にはオリジナリティがあるのだ。
 また25ミリF3.5レンズも、興味深い描写をする。レンズはトポゴンタイプである。三里塚を撮った北井一夫さんの愛用レンズとしても有名である。
 描写特性はシャープ感はあるものの、線が太い独自の描写をするので、力強い表現をすることが可能となる。シャドー部の落ち込みは酷く、もちろん周辺光量の低下もあるので、このレンズで撮影したことはすぐに判別することができるのだ。
 かわって現代的で繊細な描写をするなと思うのは50ミリF1.8および50ミリF1.4レンズである。カラー再現も申し分ないこれらのレンズは、ライカで撮影したと言っても誰もが信じてしまう優秀レンズなのだ。現代レンズにない独自の柔らかみのあるトーン再現の豊富さは、モノクロプリントをした場合に、ほんとうに驚いてしまうくらいである。また、標準レンズには50ミリF2.2という普及版タイプのものもあるのだが、まったく手抜きのない、きりっとしたシャープネスがあってこれもまた好ましいものだ。
 標準50ミリには他にも世界で最も明るいとされたF0.95(キヤノン7、7sに使用可能)とF1.2などのレンズがあるが、いずれもコレクターズアイテムとしての認識のほうが強いようだから、実用派にはお勧めできない。
 キヤノンのレンジファインダーシステムはボディ、レンズとも、マウント規格はライカLと同じだから、ライカやコシナ・フォクトレンダーのシステムとの相互乗り入れを可能としている。今でも気軽に使うことができ使用頻度はニコンSシリーズよりも、どうしても多くなるのである。

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