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 他人の持っているカメラやレンズが、やたらに面白そうに見えて、自分も欲しくなるという経験は皆さんにもよくあることだろう。私自身にはそうした欲のかたまりみたいなところがあって、他人の芝生ならぬ、他人のカメラ、レンズが気になり、結果として手に入れる事が多い。手元にある数々の品物に関しても購入の動機が果たして他人の影響なく、自分だけの判断で買ったものかどうか、きわめてあやしい。

 

※写真をクリックすると大きなサイズでご覧いただけます。

 仮にOさんとしておこう。私より若年だが、彼の使うレンズやカメラが気になった時期があった。その傾向といおうか、彼の流れにはなかなか説明し難いものがあるけれど、不思議に説得力のあるモノ選びをする人物なのである。ライカとかコンタックスとか、あるいはもっとマニアックなブランドにも詳しいが、それに大きな魅力や価値を感じているというのでもなく、安い価格で評価されているカメラやレンズも同列に眺めているらしいところがあって、常に興味深い。映画や演劇にはキャスティングというものがあるが、O氏のカメラレンズ選びにはそうした感じに近いものがある。O的カメラ世界の配役のアンサンブルの面白さが、個々の脇役のようなカメラ、レンズにも個性的な魅力を与えているようなのだ。それはたとえば独逸マイヤー製のトリオプランといった普及タイプのトリプレットレンズを、キノプラズマートといっしょくたに楽しむようなことでもあった。キノプラズマートはルドルフが設計したりもして高価なレンズだが、トリオプラン系はどれも廉価だ。しかし、収差のかなり残っているトリオプランの写り味がなかなか良いものだと気づく人はそう多くはない。私にとってはかなり新鮮な体験であった。

 

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ライカM6につけてみたキノン50ミリF2
ズミクロンなどより全長は短くコンパクトだ。
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距離計は連動しないが、60センチまでの近接能力がある。

 

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フィルターはズミタールなどと共通の特殊枠を使う。アダプターリングで39ミリのライカ標準口径のフィルターも使用可能。

 

 そうした訳で、他人の芝生が気になる私は、Oさんから、手持ちのレンズを何本か譲ってもらっている。まずトリオプラン100ミリF2.8がある。色抜けの良さとごく微かのハロが混ざり合って、花弁類の撮影やポートレイトには優しげな表情をつくってくれる。彼の持っていたトリオプラン100F2.8はプラクチカマウントなので、アダプターを介して実絞りAEの可能なカメラで使うことが多い。ソフトフォーカスレンズとも違う、またマクロレンズ的な写りとも異なる描写は美しい。さらにもう一本はやはり独逸のシュタインハイル製、キノン50ミリF2ライカスクリューマウントである。シュタインハイルはミュンヘンのメーカーだが、ライカマウントのレンズでは中口径のクルミナーが有名だ。キノンという名称はF2クラスの大口径レンズにつけられていて、このレンズもそのひとつだ。このレンズのスペックはごく普通でとりたててあげるほどではないように思われるが、子細にみるとやはりOさんのキャスティングの面白さに気づくのだ。鏡胴は戦後のドイツレンズに多く見られるアルミの削り出しだが、全長は短く、ガウスタイプのレンズではなく、ゾナータイプのレンズ構成であるように思われる。ヘリコイドの繰り出しはライカレンズとは逆の方向で、ライカを使い慣れている者には少しとまどいを感じる。そして1メートルの距離目盛りのところにクリックがあり、さらに至近までヘリコイドが繰り出せるようになっている。同じような機構はライカマウントのニッコール50ミリレンズ群にもあるが、独逸のレンズにもあったのだ。もうひとつ、フィルター枠が特殊なのである。それはズミタール用のフィルターが使えるようになっているのだ。Oさんが私にこのレンズを見せた時、このような点を細かく説明してくれた。さらに戦後すぐの時代、短い期間ではあったが、ゾナーの設計者、ルードヴィッヒ・ベルテレがシュタインハイル社で仕事をしたことを教えてくれたのもOさんだった。何の根拠もないけれど、ベルテレとこのキノン50ミリF2とが、何らかの関わりがあったと想像するのも楽しい。こんな風に述べて行くと、彼のカメラ、レンズに対する態度はごく普通にも思えるが、結果として彼が選んでいるものが少し風変わりなものであることも確かで、私にとってはいまだに不思議さを感じるところだ。しかしそのおかげで、O氏の選択を経た何本かのレンズが私のところにやってきたという訳だ。

 
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色再現はこの時代のレンズによく見られる、少し色褪せたような感じになる。
絞り F5.6 1/250秒 プロビア100F
 
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シャープは充分だ。全体の描写の感じはキヤノン50ミリF1.8の初期タイプに似ているように個人的には思う。
絞り F8 1/125秒 プロビア100F
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目測で最短60センチの撮影にチャレンジ。3カット撮影したうちのひとつ。ピント合わせのブラケティングを試みた。けっこうピントが合うものである。
絞り F5.6 1/125秒 プロビア100F

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