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新品のレンズを買う余裕などさらさらなく、新宿、銀座とカメラ店を巡り回ってようやくSカメラ店で一本出会うことができた。値段は予算どおりでしかも程度の良いレンズである。その時見せてくださいと頼んだ相手が忠さんだった。舶来高級品が主力のSカメラ店だから若僧はおづおづと聞いてみたのだった。忠さんはなくなるまで変らなかった小気味の良い反応でレンズを見せてくれた。肝心のシャッターも快調で、早速買うことに決めた。支払う時に忠さんは金額を大きな声で告げたが、プライスカードより数千円少ない金額だったのである。驚いて確認したけれど忠さんは、ああ間違えたか、でもその値段でいいよとこともなげに言った。結果的に私はまけてもらったわけだが、余裕のない人間には金銭的にも気持の点でもありがたい事件であった。
マミヤセコール55ミリF4.5はマミヤ二眼レフCシリーズ用としては最広角のレンズである。最広角といっても、画角的には現在ではおだやかに感じる。対角線で70度ほどだ。30年ほど以前ではこのレンズでもある程度建築物の撮影がこなせたのである。現在では圧倒的に建物の高さが伸び、インテリア撮影でも空間の拡がりが要求されるようになっているので、もっと広い画角のレンズが必要になっている。マミヤセコール55ミリF4.5で不自由なく仕事ができた頃はもう牧歌の時代になってしまったようだ。しかしこのレンズと同じ焦点距離を持つ、先代のワイドローライで室内写真を数多く撮影した、ウォーカー・エヴァンスの仕事振りを想い返してみると、時々このレンズを持ち出して使ってみたくなる。そしてマミヤC独特のパチンと鳴るチャージレバーの復元音を聞くと、忠さんの元気な話しぶりがよみがえる気がする。
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